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母なる証明 [映画]

5年ぶり、韓国映画に登場のウォンビン君。(2009年秋公開。ポン・ジュノ監督作品)

少し前に、ある女性ピアニストに音楽の楽しみ方について聞いたときのことだけど、その音楽家は奏でられる音色を聴きながら自由に想像の世界に遊んでほしいと言う。コンサートにでかけると、音楽を聴きながら、ついいろいろなことを考えたり思い出したり想像したり浮遊してしまう私は、もっと集中しなければと現実の世界に戻ることにいつも苦労していたので、その言葉を聞いて、なんだ、それでよかったのかと胸のつかえが下りたのだった。フワフワ自由にしてていいんだ。

目の前に映し出される映像を見て、その世界に入り込んでいく映画は少し違うかもしれないけれど、映像の上に重ね合わせていくものは一人一人違っているはずだ。たとえば、目の前に枯れ野が広がっていたとして、空恐ろしい気配を感じる人もいれば、開放感を感じる人もいるだろう。その映像がどんなものにつながっていくかというのは、その人が今まで見てきたものによって違ってくる。重ねるものがそれぞれ違うわけだから、同じ映像を見てはいるけど誰一人同じものを見ているわけではないということになる。

韓国映画は、艶やかで濡れたような映像が印象的だ。韓国映画と一括りに語ることは非常に乱暴なことだけど、私が観てきたいくつかの見応えのある韓国映画はみんな、艶がある。さて、この映画はどうだろう? 登場するのは一人の母親と、精神的に少し幼い一人息子ウォンビン君。子どもの心を持ったまま純真無垢に育ったウォンビン君は、あろうことか女子高校生殺人事件の容疑者として拘束されてしまう。母親は、息子の無実を証明しようと奔走する。息子を助けるためなら何だってするし、何者も怖れない。子を守り育て、大きな破壊力を持つというグレートマザーをまさに具現している。この母親をウザイと思う人もいれば、ありがたいと思う人もいるだろう。こんなふうに母親に守ってもらいたいと思う人だっているかもしれない。自分の身の周りを見回してみたって、何かあればママのスカートの下に実際に隠れるんじゃないかと思うような大の男がゴマンといる世の中だ。(こうした男は、歯を食いしばって耐え抜くことで見えてくるそれまでとは次元の違う世界を掴むことができない)

私が教えている幼児の水泳教室に「できません」「できません」と言う男の子がいる。標準的な体格の5歳児で、いや、少し大きいほうかもしれない。常に半泣きで、足が届くところでも縮こまって、水の中を歩くことさえできない。少し無理をさせようとするとプールの縁にしがみついて泣きじゃくる始末だ。水が怖いというのではない。肩につかまらせて水の中を動かしてあげる「おさかなさん」は大好きなのだ。どうも、新しいことをするのが怖いみたいで尻込みしてばかりだ。「5歳で、できませんとはなんだ。そんなことじゃ、これから先できないことばかり増えていくぞ。今からそんな壁を作ってばかりで、どうやって生きていくつもりだ。バカたれ! 自分でストップかけてどうする」と言いたいところだけど、それは抑えて。5歳児に説教しても何の解決にもならない。とにかく、これから、できませんというのを絶対に言わないよう固く約束させて、抱っこして水の中に入れて、片足ずつ水底に伸ばしていく。「ほら、足が届くでしょ。大丈夫」そう励ましながら、両足とも床に伸ばす。「できたね! エライね! じゃあ、今度はビート板を持って歩いてみようか」と次なるステップへ。コーチの腕をしっかりつかんで歩きながら「こわいから、放さないでよ」と不安そうにしているので、しばらくつかまらせておくと、そのうち他の子どもたちと勝手に遊び始める。水の中でほんの少し自由に体を動かすことができただけで、強ばっていた体が伸びていきいきしてくる。できないと言って逃げまどっていたのを自分で乗り越えたことで、ちょっぴり自信がついたのか、まるで別人になっている。ものすごく簡単なことを乗り越えて、彼の世界がぐんと広がったのを目の当たりにして、「ああ、これ、これ!」と思う。人が成長していくのを見るのは、なんて気持ちがいいんだろう。

周りの大人が必要なときにちょっと手助けするだけで、子どもは自分の力でぐんぐん伸びていく。近道を選ばせたり、かばって守りすぎたり、その子どもの言いなりになって「いいよ、いいよ」とやり過ごすことは、ただの怠慢でしかない。子どもの成長の邪魔になるだけだ。いつか育ち損なった子どもが、モンスターに化けることだってある。

映画の中、どしゃ降りの雨の中を行くこの母親を追いかけながら、生かす母、そして破壊する母の二面性を持つグレートマザーについてずっと考えていた。


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